コンドームをつける数秒の間にお祈りができる

コンドームをつける数秒の間にお祈りができる。数秒の間にやめようと思えばいつだってやめられる。人生はもっと自由だってこともきっと思い出せる。考えたくもない仕事のことだってきっと考えられる。目を見ないでも愛してると言える。本当なんてどこにもないよ、愛なんてどこにでもあるよ、だから探しにいこうね、探しにいこうね。君が泣いているその間にとても退屈するんだ。カラコンで無理やり大きくした目で君は何を見たの、君は何を経験したの。君には絶望が似合うね。鬱よりも絶望の方が似合うから、ブルースを聴くんだね。明日になったら明日の分の薬を飲もうね、そしてアラームもかけずに夜明け前に目を覚ますんだ、絶望は君が絶望するのを待っているから、だから世界中のブルースがその瞬間を待っている。コンドームをつける数秒の間にメモをする。ブルースは待ってくれる。いつまでも君を待ってくれる。だからお祈りしておくれ、コンドームをつける数秒の間だけは。

フォロミ

隣で寝ているのにさみしいなんて言わないで。生きている実感がわかないのは君がなにも経験していないからだよ。君を連れ回したいよ、僕の星にも遊びにきてよ。お気に入りの星柄のゴミ箱(先週の金曜日も、今週の火曜日も、出しそびれてしまったんだ。)も、それ以外も、全て見せてあげるのに。そして、それでも好きって言わせるから。

でも実は、フリック入力のデジタルな文章でも、体温も何もかも全て伝わるはずだと信じていた僕が間違えていたのかもしれないね。今、君が抱きしめている思い出以外の全てが暖かいのに、君を連れ出すための手段だけが思いつかない。

幸せ以外の目標を立てよう。実はこの世には楽しい不幸っていうのがあって、このところ僕はずっとその状態で、それもなかなか悪くないんだよ。いきなりまともになるのは怖いから、僕についてきてよ。再来週には月に帰る予定だから、それまでに返事が欲しいんだ。キラキラも、キラキラ以外も全て手に入れようね。その先でまた笑って暮らそうね。今度は必ず違う星で待ち合わせしようね。

赤い喫茶室

私がエロくてかわいい女の子でなくなっても、あなたと話がしたい。西か東かそれとも南か、なんかそんな光が差し込む午後の喫茶室、私は俗っぽい言葉をとめどなく繰り返す女で、褒め言葉の真意に遅れて気づくことにもほとほと疲れている。君は私ににっこり微笑んで、口パクする。その唇をしばらく見つめた後、私はここを出ることにした。何故なら、そうしなければならない理由が、なんか、どこかに、きっと、多分、あると思ったから。そしてその理由を捕まえて私のものにしなければ君に殺されると、そう思った。

言葉は、静電気を纏いながら当直室のシーツを交換しているときに浮かんでくる、音楽は、早朝、電車を乗り過ごし舌打ちをした君の中で鳴っている。過労死ラインを超えてしまったと笑いながら話す中年の頭には、学生時代に中南米で見た美しい光景だけが、繰り返し再生されている。

だから、私はここを出なければならない。君に定義された私に身体がすっかり馴染んでしまう、その前に。もうきっと、サビなんて過ぎてしまった、よくわからないけど。だから早くしないとアウトロが鳴り始めてしまう。そう、人生なんてそんなもんだろう。きっと、そうなんだ。そうして、エロくてかわいい女は喫茶室を出ようとして立ち上がり、そのままズッコケた。

こころ

身体の正しい動かし方がわからない。身体の正しい置き場所がわからない。いつも数歩遅れるようにしてなんとか動かしている。身体が思考に追いつかないのか、思考が身体に追いつかないのか、その両方か、私の思考と実体は相性が悪い。大森靖子がいつかの朝、「体は(学校や職場に)囚われても心だけは好きな場所にいてね」と言っていた気がするが、私はその囚われる場所が身体そのものであるから、いつも落ち着かない。身体に囚われた心はどこにいればいいんだろう、私の心を知りませんか。もうどこにも行って欲しくないんです。ずっとここにいてほしいんです。もうどこにも行きたくないんです。こんなのは、もう終わりにしたいんです。

そんなムードを掻き消して拍手喝采が巻き起こるんだ

1つ、どうしようもない人生の話。コーヒーをこぼしてできた染みみたいに、どうしようもない映画の美しいラストシーン。このために生きていたんだと錯覚してしまうくらい寝不足な夜。自分はいつか難聴の老人になると自虐するギタリスト。

どうしようもないよねと笑われて安心する。感情に1つずつ名前をつける。5つ目の季節がもうすぐやってくる、どうしようもない君のためだけに。生ぬるい季節がやってくる。風とも呼べない風を吹かせながら。

B級映画の美しいラストシーンのように、君以外の日常に大どんでん返しを。最後はやってくる、よって君は美しさに狙われている、日常なんかは彩らないままで。詩とは呼べなかった散文。散文とも呼べなかった独り言。死んじゃってからじゃ遅いよね、と頭を撫でる。埋まらない孤独を埋めてしまってから後悔する。心の穴の形は変化する、だから嬉しいね、自分によって自分が裏切られるのが嬉しいね。君は祝福から逃げ続けている。それでもやってくる、祝福は君を逃がさない。変化した君はそれを受け入れる、それをずっと待っている、不幸だった君がそれすらも受け入れるのを待っている。裏切ってまで祝福される君をずっと待っている。

ことばの効用力について

ことばの狂気、そのどうしようもない狂気を抱きしめながら生きてきた、あるいはそれに抱きしめられながら。

ことばが答え合わせをしてくれる、生きてきた意味を与えてくれる、そんな夜がある。

辿りつく景色だけが全てなら、生きてきてよかった。だって、そこまで自分の足で歩いてきたから。

いっさいの区切りがない文章が書きたい。永遠に終わらない言葉を、贈りたい。ピリオドなんかで、句点なんかで終わらせない文章を。あなたの中で、わたしのなかで永遠に光る一節を。

 

 だからことばが好きだ。だからことばが好きだ。だからことばが好きだ。だからことばが好きだ。

夢(未完成)

まだはっきりとしない意識の中で鳴るアラームの音、それを聞き続けていくうちに意識は鮮明になる。その間に今日が来たことを知り、私はベッドの上にある右から2番目の突起を押してその音を止める。それから目を閉じたまま手が届く範囲にあるものをひとつずつ触って確認していく。目覚まし時計、携帯電話、小さなぬいぐるみ、懐中電灯。時間をかけてそれらがきちんとそこに存在していることを確認する。指でなぞって読んだ線を、手のひら全てを使って組み立てながら。目を閉じていても輪郭がはっきりと見えるようになってから、私はようやく目を開ける。それから部屋を見渡して、やっと安心する。変わったことはないと。

あたしは夢を見ているの。まばたきする間くらいの長さの、それでいていつ終わるのかわからないような途方もない夢をね。あたしは確かに内側にいて、でもあなたから見たらあたしは表面かもしれない。夢と同じように、あたしもよくわからない。でもね、それは普通のことなの、当たり前のこと。意味はないの。

靴をつま先だけで履いて窓の外を眺める。ここでは何もできない。この窓から落ちる間に、いくつ夢を見られるのか数えながら小さく息を吸う。ここは消毒液の嫌な匂いがするから自然と口呼吸になってしまった。正しい匂いは嫌いだ。甘すぎて脳みそが溶けてしまうような、頭の悪い匂いのほうがよっぽどいい。私は、正しいものに囲まれるといつもどうしていいのかわからなくなる。正しいものが真っ当だとは限らないのに、皆それを信じて疑わない。口呼吸になったために、乾ききった唇の皮を噛む。剥けたところがひりひりと痛む。持ってきたペンとノートじゃ私の書きたいものは書けないような気がしたから最近は日記を付けるようにしている。ここで起こることなんて限られているけれど、こういうものが私には丁度いい。誰に見られてもいいような事実と少しの感想だけを書いたノートはいつの間にかあと半分になっていた。ここに来てからどれくらい経つのか、まるで覚えていない。それでもノートの1番最初のページを開く、なんてことは怖くてできない。私がその間に確かにそこに存在していた事実を確認するのは甚だ恐ろしい。遠くで誰かが歌っているのがきこえる。マイクの設定のせいなのか、霞んでいてよくわからないのに伸びた音が耳に付くので気分が悪くなった。

もう一度ベッドに入って目を瞑ってみる。こうしている間にだけ存在する不確かな世界は美しい。けれどそれ以上に恐ろしい。自分の中で渦巻いている美しさに飲み込まれないように私はいつでも必死なのだ。曖昧を守り続けることに。

あなたはいつも意味のないことを考えているね。それってそんなに大切?意味のないものに時間を費やすことに意味を見出そうとするのはとても滑稽に見えるよ。意味はいくら変形させても意味でしかないの。価値じゃないんだから。あなたがそれをどこまで理解してくれるかわからないけれど。

ここは荒野だ。全ての物語と同じように。私の脳内はそれを持て余し、どこかに行こうとしてしまう。夢を見たい、夢を見たい、夢を見たい。正しくない夢を、果てしない夢を。