真っ赤な

楽しいことだけを考えて生きていこうよ、例えばつまらない冗談を言っては私たちを苛立たせるあの英語の先生が風船みたいに膨らんでいって空中で弾けて肉片が散乱している教室でセックスしようよ。先生の肉で教室が真っ赤になった瞬間、僕の隣に座ってる君は笑って顔についた血を手で拭う。ざわめきがどんどん大きくなって聞こえなくなって、ついに誰もいなくなった教室に鍵をかけて服を着たままする。

「私たちがやったみたいだね」って君が悪い顔をするから僕は君の首を強く絞めたくなる。救急車なのかパトカーなのかよくわからないサイレンが鳴り響いて足音が聞こえるけれど、僕たちは聞こえないふりをする。黒い服を着た大人たちが教室を強くノックして何かを叫んでいるけれど、僕たちは絶対に離れない。頭がぐわんぐわんしていつかインターネットで見た蛇の交尾とその横を流れている沼みたいな赤黒い川を思い出す。

君の顔についた血はもう乾いて君のそばかすだらけの肌から少し浮いている。僕は君の顔についた血をそっと舐める。僕の唾液で乾きかけていた血が溶けて、口の中で滲む。さっきまでつまらない授業をしていた先生の血は君の経血の味と大して変わらなかった。先生って閉経してたのかな、閉経してから死ぬってどんな感じだろう、よくわからないけど、なんかありえない感じがする。君もいつか結婚してしまったり妊娠してしまったり閉経してしまったりするのかな、髪が伸びるみたいに胸が大きくなるみたいに自然に変化していくのかな、嫌だな、今が一番いいよ君は絶対、ああ嫌になってきた、とか考える。君の息の音も聞こえなくなったことに気づいてふと我に返ると、変なこと考えてたでしょ、と君が怒っている。変なことしか考えてないよって笑ってみるけど多分その顔は不自然で、君が少し不満そうにする。急に鋭い音がして廊下のガラスが割られる。血まみれで肉片が転がっている教室の真ん中でセックスしている僕たちは知らない人達に目撃される。今死のうかって君が耳元で囁く。珍しく真面目な顔をした君が僕の目をじっと見つめている。僕は死ぬと言われても何も思いつかなくて、でも今君と死んだ方がいい気もしてそっと頷く。君は人がいっぱいいる廊下に背を向けて窓のほうへ歩き出す。先生の肉片を気にせず踏んですたすたと歩く君の後ろを僕は慌てて追いかける。君がやろうとしていることは僕ももうわかっているけどここは2階だし飛び降りてもどうせ死ねないよ。やっぱり君はこうやって生き残って結婚してしまったり妊娠してしまったり閉経してしまったりする運命なのかもしれないね、ベランダに赤い上履きの足跡がつく。後ろから知らない人が追いかけてくる。さっきまで真面目な顔をしていた君が笑っている。君は僕の手を握って落下する。真っ赤な顔で笑って、落下していく。