アナウンサー

朝目を覚ますと○○が隣にいる…はずもない。

君はとっくの昔に起きて今日もトイレで誰かと話をしている。君の言う〝馬鹿みたいな奴ら〟みたいにゲラゲラ笑って。

わたしはスリッパを履いて目をこすりながら洗面所まで行く。今日もきっと何もないだろう。長期休暇みたいな朝が始まった。

前髪を丁寧にピンで留め、顔を洗う。洗顔料を泡立てているときだけ優しい気持ちになれる気がする。ふわふわした泡に包まれたわたしの表情は曇っていた。多分。冷たい水で顔を洗うと目が覚めた。覚めたくなかったことまで覚めてしまうような気がして布団に戻りたくなったが現実はそうはいかない。

続いてわたしはキッチンへ向かった。起きてきたわたしに気がついたのか○○はなきまりの悪そうな少し低い声で「おはよう」と言う。わたしもそれに返事をする。

パンにバターを塗って、トースターに入れる。温めたフライパンに油をひいて卵をふたつ割る。これを同時に行う。初めは一つずつしていたけれど半年も同じようなことをしているので不器用なわたしも慣れてしまった。

そうこうしているうちにパンも卵も焼けた。わたしも○○もパンに目玉焼きを乗せて食べるのが好きだ。○○はこれを得した気分になると言う。よくわからないけど効率的だし美味しいからいいねと返すと○○はわかりやすく不満そうな顔をする。

テレビを付けるとニュースをやっていた。ニュースはニュースらしいことを言っていた。面白くないのですぐに消した。

○○は友達と出かけるらしく比較的綺麗な服に着替えてすぐに出ていった。なんだか泣きそうだ。好きでもない牛乳を飲んだ。

テレビをもう一度付ける。やっぱり泣きそうだ。もう一度テレビを消したらこのまま全部が消えてしまいそうな気がして怖くて消せなかった。アナウンサーの作った笑顔が嫌になった。もういい、全部消えてしまえばいいのに。テレビのリモコンを投げた。テレビは消えなかった。

アナウンサーの笑い声とわたしの泣き声が混ざりあった部屋はやけに静かだった。