(?)存在

胸が痛くなった。なんでそんな言葉が存在してしまって、そんな事実で私なんかが困ってしまうんだろう。今までと同じように知らん顔で歩けば、このまま忘れられる、それだけなのに。ああ、疲れた。口に出すと楽になる。それ、ほんとう?口に出すだけで少なくとも事実になる、その事実で安心する自分がいる。それは何より。ねえ、いつまでこんなくだらない独り言をぶら下げながら歩けば、そこへ行けるの?私はもう(あれ)は、扱いたくないよ。

起きて間もない割には綺麗な布団を眺める。おはよう、と小さく呟く。自分だけのために。贅沢な言葉の使い方、そう思ってしまった自分に呆れる。そもそも、人と暮らすのに、共に生きていくのに向いていなかっただけのことじゃないか。この部屋では派手すぎる花柄のポットが可哀想に思えた。一人は少しつまらない。さみしい、なんて意地でも言いたくない。口に出したら少なくとも事実になってしまう。

携帯電話の電源を切って、外に出る。余計なものは全て削ぎ落とす、そんなこと私にはできないとわかっていながら、少し憧れる。だって、こんな霞んだものを追いかける生活を続けていたら誰だっておかしくなってしまう。安定の波がとても難しいから、流されて流されてここに行き着いた、そしていつからか不安定を持ちながら彷徨うことに安定してしまった。私の嫌う、どうしようもない大人 そっくりだ。

あの頃の私の頭を撫でてあげたい。できるだけ自然に笑いながら。多分、私は何もわからずに笑うだろう。飾らない笑顔で。

携帯電話は電源を切っていても何の支障もきたさない。無意識にため息が出る。こんなときに 幸せが逃げていっちゃう!なんて言えるのは、幸せが勿体ないくらい幸せな人だけだ。

あの部屋に全て収まってしまうくらい、世界が単純で小さければ、私もこんなに惨めにならずに済んだのに。こんなことになっているのに、自分の涙はまだ見たくない。ぎりぎりのバランスで保っていた空洞が一気に崩れてしまいそうだから、どこでもない場所に行きたい。

歪んだ顔で見上げた空には、細くて不安定な線を描いた意味が確かにあって、私をにこにこと見下ろしていた。